健康経営とは|投資対効果と国の3つの認定制度を経営者の視点で解説
最終更新:2026年10月18日 / Longevity Methods for 戦略的健康経営編集部
小規模・短期のヒト試験はあるが、結論は未確立
今回の評価:健康経営優良法人などの認定制度は、経済産業省の公式制度として確立しています。一方、業績・株価との関係は、相関を示す調査はあるが因果は確立しておらず、投資対効果の数字は慎重に読む必要があります
要点(現時点の研究状況)
- 健康経営とは、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」です(経済産業省の定義)。2006年に提唱され、2014年度から国が本格的に推進している経営手法です。
- 国は、取り組みを可視化する仕組みとして、健康経営優良法人(大規模=ホワイト500・中小=ブライト500)を設けています。認定法人は年々増加しており、2026年は計26,850法人と過去最多です。
- 投資対効果の面では、プレゼンティーイズム(出勤しているが、不調により生産性が低下している状態)が健康関連コストの約8割を占めるという試算が注目されています。ただし、「健康経営で業績が上がる」という報告は相関であり、因果は確立していません。数字を正しく読むことが重要です。
健康経営の定義と経緯
健康経営とは、経済産業省の定義で「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」を指します。従業員の健康を福利厚生的な「コスト」ではなく、企業の生産性や価値を高める「投資」として捉える考え方です。
「健康経営」という言葉は、2006年にNPO法人健康経営研究会が提唱した概念で、同会の登録商標です。その後、経済産業省が2014年度から施策として本格的に推進し、後述の「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」といった制度を通じて社会に普及しました。近年は、人という資源を資本として捉える人的資本経営の実行面を担う手法として位置づけられています。
経営課題となっている理由(人的資本開示の流れ)
健康経営が経営課題として重みを増している背景には、人的資本の情報開示という流れがあります。2023年3月期決算以降、有価証券報告書を発行する上場企業等(約4,000社)に、人材育成方針・社内環境整備方針とその指標などの開示が義務づけられました(内閣府令改正)。投資家や求職者が「企業が人にどう投資しているか」を見る時代になり、従業員の健康への投資はその重要な要素になっています。
あわせて、人材確保が難しくなるなかで、健康経営は採用ブランディング・従業員エンゲージメント・離職防止の観点からも注目されています(これらは効果が報告されている論点で、後述のとおり因果の証明とは区別して捉える必要があります)。
国が設けている3つの可視化の仕組み
健康経営を客観的に評価・可視化するため、国は主に次の仕組みを用意しています。
- 健康経営度調査:経済産業省が実施する調査で、企業の取り組み状況を評価する基礎データ。大規模法人の認定・銘柄選定の土台になります。
- 健康経営優良法人認定制度(2016年度〜/認定は日本健康会議):大規模法人部門の上位500法人が「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位500法人が「ブライト500」として認定されます(501〜1,500位はネクストブライト1000)。
- 健康経営銘柄:上場企業を対象に、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する別建ての制度です。制度の枠組み・ホワイト500との違い・選定企業一覧の確認方法は健康経営銘柄とは(ホワイト500との違いと一覧の確認方法)にまとめています。
認定法人は年々増加しており、2026年の健康経営優良法人は大規模3,765・中小23,085の計26,850法人(過去最多)です(経済産業省発表・2026年時点)。※認定数・要件は毎年更新されるため、最新は経済産業省でご確認ください。
自社で認定取得を目指す場合の部門判定・申請スケジュール・要件の全体像は健康経営優良法人の取得ロードマップにまとめています。実際に認定・選定されている企業が何をどう開示しているかは日本企業の業界別 健康経営事例で確認できます。
投資対効果の読み方
経営判断において最も重要なのが、投資対効果(ROI)の捉え方です。この点については、「確立している事実」と「参考値・相関」を区別して読むことが欠かせません。
① プレゼンティーイズムという見えにくいコスト:東京大学の研究(古井祐司ら)では、企業の健康関連総コストの内訳がプレゼンティーイズム77.9%/医療費15.7%/アブセンティーイズム(欠勤)4.4%と試算されています。これは、「出勤しているが、不調により生産性が下がっている」ことによる損失が、医療費や欠勤よりはるかに大きいことを可視化したものです(特定の企業群・測定手法に基づく試算値で、割合は母集団により変動しうる点に留保)。両者の定義と違いはプレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの解説で、測定尺度による数値の意味の違いは主要5尺度の比較で詳しく扱っています。
② 「1ドルの投資で約3ドルのリターン」の扱い:米国のジョンソン・エンド・ジョンソンの試算(2002〜2008年に、1ドルの投資につき2.71ドルのリターン。Harvard Business Review, 2010年)がよく引用されますが、これは海外・特定企業(1社グループ)の10年以上前の試算であり、日本企業・全業種にそのまま一般化はできません。当サイトでは、広く知られた参考値として紹介しています。
③ 業績・株価との相関と因果:顕彰制度の選定企業の株価を分析した資料などで一定の相関が報告されることがありますが、これは相関であって因果の証明ではありません。「健康経営に取り組む余力のある優良企業だから業績も良い」という逆の因果・交絡の可能性を、常に念頭に置く必要があります。「健康経営をすれば必ず業績が上がる」と考えるのは誤りです。
中小企業でも小規模から始められる
健康経営は大企業だけのものではありません。中小規模法人部門(ブライト500・ネクストブライト1000)が用意され、認定数の増加は中小企業が中心となっています(2026年の中小規模法人部門の認定は23,085法人)。全国健康保険協会(協会けんぽ)の各支部と連携した取り組みなど、大がかりな投資をせずに小さく始められる枠組みがあります。まずは、自社の健康課題の可視化(健診データの活用・従業員アンケート)から着手することが現実的です。
健康経営は人的資本への合理的な投資です
健康経営は、国の制度として確立し、認定法人も過去最多を更新し続けている、標準的な経営テーマです。一方で、その投資対効果は「必ず業績が上がる」と断定できるものではなく、相関を示す調査はあるが、因果は確立していないというのが現状です。そのため、流行やイメージで導入するのではなく、プレゼンティーイズムなどの自社データで課題を可視化し、人的資本への合理的な投資として設計することが重要です。当サイトでは、こうした施策・サービスについて、「経営効果の裏づけがあるか」という視点で、引き続き情報を整理します。
出典・参考にした研究
- ・経済産業省:健康経営(定義・施策)
- ・経済産業省:健康経営優良法人認定制度(ホワイト500・ブライト500)(2026年認定 計26,850法人)
- ・経済産業省:健康経営銘柄(東証と共同)(2015年〜)
- ・NPO法人健康経営研究会(2006年提唱・登録商標)(概念の由来)
- ・内閣府「健康で日本を元気に」シンポジウム(2016年6月16日)古井祐司氏説明資料2(日本企業の健康関連コストの構造(資料:東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット)。相対的プレゼンティーイズム77.9%/医療費15.7%/アブセンティーイズム4.4%)
- ・J&J 健康プログラムのROI「2.71ドル」(Harvard Business Review, 2010)(米1社・2002〜2008年の試算)
- ・金融庁ほか:人的資本の情報開示義務化(2023年3月期〜)(有価証券報告書での開示)
※本記事は効果効能を保証・断定するものではなく、公表されている研究・一次情報を中立に整理したものです。サプリメントは医薬品ではありません。体調・治療の判断は医師等の専門家にご相談ください。
よくある質問
健康経営とは何ですか?
従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです(経済産業省の定義)。従業員の健康をコストではなく、生産性や企業価値を高める投資として捉える経営手法であり、2006年に提唱され、2014年度から国が推進しています。
ホワイト500・ブライト500とは何ですか?
健康経営優良法人認定制度において、大規模法人部門の上位500法人が「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位500法人が「ブライト500」として認定されます。経済産業省が制度を設計し、日本健康会議が認定します(認定数・要件は毎年更新されるため、最新情報は経済産業省の公式サイトにてご確認ください)。
健康経営に取り組むと本当に業績は上がりますか?
必ず上がるとはいえません。業績や株価との相関を示す調査はありますが、因果は確立しておらず、「健康経営に取り組む余力のある優良企業だから業績も良い」という逆の因果・交絡の可能性もあります。一方、プレゼンティーイズム(不調による生産性の低下)という見えにくいコストを可視化・改善する意義は、大きいとされています。
中小企業でも健康経営はできますか?
取り組むことができます。中小規模法人部門(ブライト500・ネクストブライト1000)が設けられており、認定数の増加は中小企業が中心となっています。協会けんぽとの連携など、大きな投資をせずに小規模から始められる枠組みがあります。
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