プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムとは|ロンジェビティ経営で最重要の2指標
最終更新:2026年7月18日 / Longevity Methods for 戦略的健康経営編集部
小規模・短期のヒト試験はあるが、結論は未確立
今回の評価:用語の定義と、健康関連コストに占める割合(東京大学 古井祐司らの試算)は確立した整理。一方、測定は本人へのアンケート(自己申告)で尺度が複数あり方法論も発展途上のため、数値の絶対水準・社間比較は慎重に扱う必要があります。
結論(30秒でわかる現在地)
- アブセンティーイズム=病気やケガで欠勤・休職して働けない状態、プレゼンティーイズム=出勤はしているが心身の不調で本来の生産性が出せていない状態。対になる2つの概念です。
- ロンジェビティ(戦略的健康経営)で最重要なのはプレゼンティーイズム。東京大学(古井祐司ら)の試算では、企業の健康関連総コストの内訳はプレゼンティーイズム77.9%/医療費15.7%/欠勤(アブセンティーイズム)4.4%で、“見えにくい損失”が最大です。
- 測定は本人へのアンケート(自己申告)で、WHO-HPQ・SPQ(東大1項目版)・WLQ-J・WFunなど尺度が複数あります。『損失=低いほど良い』尺度と『パフォーマンス=高いほど良い』尺度が混在するため、A社とB社の数値を並べて比較することはできません。
- 健康投資がこれらの指標を改善する『相関』は各社が報告していますが、因果は確立していません。自社で1つの尺度を決めて時系列で追い、生産性・活力の変化として捉えるのが誠実な使い方です。
2つの用語の意味と違い
健康経営・ロンジェビティ経営を語るときに必ず出てくるのが、アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムという対の概念です。
- アブセンティーイズム(absenteeism):病気やケガで欠勤・休職して働けない状態。「休んでいる」ことによる損失です。
- プレゼンティーイズム(presenteeism):出勤はしているが、心身の不調で本来のパフォーマンスが出せていない状態。頭痛・花粉症・睡眠不足・メンタル不調・肩こりなどで、「来てはいるが実力が出ない」損失です。
直感的には「休む人のコスト(アブセンティーイズム)」の方が大きそうに見えますが、実際は逆で、「来ているけれど不調な人のコスト(プレゼンティーイズム)」の方がはるかに大きい——これが健康経営の出発点になっています。
なぜロンジェビティ経営で最重要なのか
ロンジェビティを「経営リソース」として活用する狙いは、単に病気を減らすことではなく、働く人の活力と生産性を長く保つことにあります。その効果が最も大きく表れるのがプレゼンティーイズムです。
東京大学(古井祐司ら)の試算では、企業の健康関連総コストの内訳はプレゼンティーイズム77.9%/医療費15.7%/アブセンティーイズム(欠勤)4.4%とされています。つまり、企業が負担している“健康にまつわる損失”の大半は、医療費でも欠勤でもなく、「出勤しているが不調で生産性が下がっている」という見えにくい部分だということです(特定の企業群・測定手法に基づく試算値で、割合は母集団により変動しうる点に留保)。
だからこそ、睡眠・運動・食事・メンタルといったロンジェビティ施策や健康投資は、「医療費削減」よりも「プレゼンティーイズムの改善=生産性の底上げ」を主目的に据えるのが、経営として筋の良い考え方になります。
どうやって測るのか(尺度と“数字の読み方”)
プレゼンティーイズムは、レントゲンのように客観測定できるものではなく、本人へのアンケート(自己申告)で測ります。代表的な尺度は次のとおりです。
- WHO-HPQ(世界保健機関の健康と労働パフォーマンス質問票)
- SPQ(東大1項目版)(東京大学が開発した1問で測る簡易版)
- WLQ-J(Work Limitations Questionnaire 日本版)
- WFun(産業医科大学が開発した労働機能障害の尺度)
ここで最も注意すべきなのが、尺度によって数値の意味が正反対になることです。「損失=低いほど良い」タイプ(SPQ等)と「パフォーマンス=高いほど良い」タイプ(WHO-HPQ等)が混在しています。たとえばA社が『23%』、B社が『69点』と公表していても、方向が逆なので並べて優劣を語ることはできません。さらに自己申告であること、測定方法論がまだ発展途上であること(査読レビューでも「労働生産性損失の測定方法の確立」が今後の課題とされています)も踏まえる必要があります。
実務では、自社で1つの尺度を決めて、同じ条件で時系列に追うのが基本です。他社の数字と競うのではなく、自社の推移で施策の効果を見るのが正しい使い方です。
ロンジェビティ施策は本当にこれらを改善するのか
「健康投資でプレゼンティーイズムが◯%改善した」という報告は各社から出ています。ただし、そのほとんどは前年度比の自己申告値や相関であり、施策とアウトカムの因果関係が統計的に確立しているわけではありません(在宅勤務比率・季節・回答者構成の変化などの交絡を排除しきれていない)。
また「健康経営に取り組む企業は株価・業績が良い」という関係も、相関であって因果ではない点に注意が必要です(もともと経営体力のある優良企業が健康経営も株価も両立できている、という逆の因果・交絡の可能性)。この論点は日本企業の業界別 健康経営事例で詳しく扱っています。
だからといって取り組む価値がないわけではありません。プレゼンティーイズムは「働く人の不調による生産性低下」という実在のコストであり、それを可視化して、自社の物差しで下げていくこと自体に意味があります。過度な期待も全否定も避け、検証しながら投資するのがロンジェビティ経営の姿勢です。
まとめ:まず“自社の物差し”で測ることから
アブセンティーイズム(欠勤)とプレゼンティーイズム(出勤時の不調)は、健康経営の効果を測る2つの物差しです。特にプレゼンティーイズムは損失の大半を占める“隠れたコスト”であり、ロンジェビティ施策の主目的に据えるべき指標です。ただし数値は自己申告・尺度がバラバラ・因果は未確立という三重の留保がつきます。他社比較に一喜一憂せず、自社で1尺度を決めて時系列で追う——それが数字に振り回されない健康経営の第一歩です。基礎は健康経営とは何かもあわせてご覧ください。
出典・参考にした研究
- ・企業の健康関連総コストに占めるプレゼンティーイズムの割合(東京大学 古井祐司ら)(プレゼンティーイズム77.9%/医療費15.7%/欠勤4.4%の試算)
- ・経済産業省『企業の健康経営ガイドブック』(プレゼンティーイズム測定尺度(WHO-HPQ/東大1項目版/WLQ-J/WFun等)の例示)
- ・労働生産性損失(プレゼンティーイズム)測定の方法論に関する査読レビュー(産業医学レビュー, 武藤孝司ほか)(測定方法論の確立が今後の課題と明記)
- ・日本企業の業界別 健康経営事例(当サイト)(尺度非互換・相関≠因果の実例)
※本記事は効果効能を保証・断定するものではなく、公表されている研究・一次情報を中立に整理したものです。サプリメントは医薬品ではありません。体調・治療の判断は医師等の専門家にご相談ください。
よくある質問
プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの違いは?
アブセンティーイズムは病気やケガで欠勤・休職して働けない状態(休んでいる)、プレゼンティーイズムは出勤しているが心身の不調で本来の生産性が出せていない状態(来ているが実力が出ない)です。対になる概念で、健康経営ではプレゼンティーイズムの損失の方がはるかに大きいとされています。
なぜプレゼンティーイズムが重要視されるのですか?
東京大学(古井祐司ら)の試算では、企業の健康関連総コストの内訳はプレゼンティーイズム77.9%/医療費15.7%/欠勤4.4%で、医療費や欠勤より『出勤しているが不調』による損失が最大だからです。目に見えにくいコストを可視化する概念として、健康経営のKPIに使われています。
プレゼンティーイズムはどうやって測るのですか?
客観測定はできず、本人へのアンケート(自己申告)で測ります。WHO-HPQ、SPQ(東大1項目版)、WLQ-J、WFunなど複数の尺度があります。『損失=低いほど良い』尺度と『パフォーマンス=高いほど良い』尺度が混在するため、企業間で数値を並べて比較することはできません。自社で1尺度を決めて時系列で追うのが基本です。
ロンジェビティ施策でプレゼンティーイズムは改善しますか?
各社が『改善した』と報告していますが、その多くは自己申告値や相関で、因果関係が確立しているわけではありません。過度な期待も全否定も避け、自社の尺度で継続測定しながら、生産性・活力の変化として検証していくのが誠実な進め方です。
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