プレゼンティーイズム測定尺度の比較|WHO-HPQ・SPQ・WLQ-J・W-Funの違いと“社間比較できない”理由

最終更新:2026-07-24Longevity Methods for 戦略的健康経営編集部

エビデンス:ヒト試験は限定的

小規模・短期のヒト試験はあるが、結論は未確立

今回の評価:各尺度の設計(項目数・測定内容・方向)は公開情報で確認できるが、プレゼンティーイズムの測定は自己申告が中心で、尺度間の互換性・方法論は学術的にも未確立。数値の絶対視は禁物です。

結論(30秒でわかる現在地)

  • プレゼンティーイズムの測定尺度は主に5つ(WHO-HPQ/SPQ(東大1項目版)/WLQ-J/W-Fun/QQ法)。測定している中身も、スコアの向きもバラバラです。
  • 最大の落とし穴がスコアの“方向”。SPQ・WHO-HPQは「高いほど良い」パフォーマンス型、WLQ-J・W-Funは「高いほど悪い」損失・障害型。方向が真逆の指標を並べて“A社69点 vs B社23%”と比較しても意味がありません
  • 実務の結論はシンプルで、①自社は1つの尺度に決めて経年で変化を見る②他社の数値とは並べない③どれも自己申告である前提を忘れない。導入企業が最も多いのはSPQ(東大1項目版)です。

なぜ「同じプレゼンティーイズム」でも数字が変わるのか

プレゼンティーイズム(出勤しているが不調で本来のパフォーマンスが出せていない状態)の「損失」は、どの尺度で測るかによって出てくる数字がまったく変わります。設問数が1問のものから25項目のものまであり、「仕事の出来(パフォーマンス)」を測るものと「業務の制限・機能障害」を測るものが混在するためです。つまり、A社が公表した数値とB社の数値は、同じ言葉でも“別のものさし”で測った別の量であることが珍しくありません。以下の比較表で、その違いを整理します。

主要5尺度の比較表

尺度開発・出典項目数測定している中身スコアの方向損失率への換算主な留意点
SPQ(東大1項目版)東京大学(古井祐司ら)1問病気やケガがない時を100%としたときの、過去4週間の仕事の出来(%)パフォーマンス型(高いほど良い・100%が満点)「100 − 回答%」で損失率最も簡便で導入企業が最多。1問ゆえ粗く、細かな要因分解はできない
WHO-HPQWHO/ハーバード大中核3問過去4週間の仕事の出来の自己評価(絶対的・相対的の2表示)パフォーマンス型(高いほど良い)相対的プレゼンティーイズム等で算出国際的に普及。表現が難解で解釈に注意
WLQ-JTufts大(WLQ)の日本語版25項目・4次元時間管理/身体/精神・対人/アウトプットの各“業務の制限”損失型(高いほど制限・損失が大きい)生産性損失率を算出多角的だが回答負担が大きく研究向き
W-Fun(WFun)産業医科大学7項目健康問題による労働機能の障害の程度障害型(高いほど障害が大きい)直接の金額換算は主目的でない国産・客観性を重視。損失額の推計には別の前提が必要
QQ法東京大学2問仕事の「量」と「質」の低下損失型(低下が大きいほど損失大)量×質で損失を推定簡便だが主観に依存

※項目数・測定内容は各尺度の公開情報にもとづく整理です。導入状況は「SPQが3社に1社程度で最多、次いでWHO-HPQ」とする調査があります(出典は下部)。

最大の罠:スコアの“方向”が真逆

比較表で最も重要なのが「スコアの方向」の列です。

  • SPQ・WHO-HPQ=パフォーマンス型:数値が高いほど良い(100%=完全に力を発揮)。
  • WLQ-J・W-Fun・QQ法=損失/障害型:数値が高いほど悪い(制限・障害が大きい)。

つまり、ある企業が「SPQで69点」、別の企業が「WLQで損失率23%」と公表していても、片方は“高いほど良い”、もう片方は“高いほど悪い”指標です。方向も中身も違うものを横に並べて「どちらが優秀か」を論じることはできません。健康経営の事例記事で各社の数値が“比較不能”になるのは、この設計の違いが原因です。

自社ではどう選び、どう使うか

  1. 1つの尺度に決める:まず簡便なSPQ(東大1項目版)から始める企業が多いです。WHO-HPQと遜色ない妥当性があるとされ、1問で継続測定しやすいのが利点。要因を深掘りしたい段階でWLQ-J等を検討します。
  2. 経年(同一尺度)で変化を見る:絶対値より、同じ尺度・同じ集団での前年比の変化が実務的な指標です。
  3. 他社比較には使わない:尺度・母集団・実施方法が違えば比較は成立しません。ベンチマークするなら「同じ尺度・条件のデータ」に限ります。
  4. 自己申告バイアスを前提に:いずれも本人アンケートです。測定月・回収率・匿名性の設計で数値は動きます。

測定の限界(正直に)

プレゼンティーイズムの測定は、①自己申告が中心で客観指標との対応づけが難しい②尺度間の互換性・換算の標準が確立していない③損失額への換算には賃金等の別の前提が要る——という限界があります。だからこそ「◯◯%改善した」という単発の数値を鵜呑みにせず、測定方法(尺度名・年度・自己申告である旨)とセットで読むことが重要です。健康経営の“効果”そのものの因果も未確立である点は、プレゼンティーイズムとアブセンティーイズム健康経営とはの記事もあわせてご覧ください。

出典・参考にした研究

※本記事は効果効能を保証・断定するものではなく、公表されている研究・一次情報を中立に整理したものです。サプリメントは医薬品ではありません。体調・治療の判断は医師等の専門家にご相談ください。

よくある質問

プレゼンティーイズムの測定尺度はどれを使えばいい?

まず簡便なSPQ(東大1項目版・1問)から始める企業が多く、導入割合も最多です。WHO-HPQと遜色ない妥当性があるとされます。要因を細かく分解したい段階でWLQ-J(25項目)やW-Funを検討します。重要なのは“1つに決めて経年で見る”ことです。

他社のプレゼンティーイズムの数値と比較できますか?

できません。尺度によって測定内容もスコアの方向も違い、SPQ・WHO-HPQは高いほど良い、WLQ-J・W-Funは高いほど悪い指標です。方向も中身も違う数値を横に並べても意味がありません。比較するなら同じ尺度・同じ条件のデータに限ります。

損失率(%)への換算はどうする?

尺度により方法が異なります。SPQは「100−回答%」で損失率、WHO-HPQは相対的プレゼンティーイズム等で算出、WLQ-Jは生産性損失率を出します。W-Funは労働機能障害の程度を測る設計で、金額換算には賃金など別の前提が必要です。換算方法は必ず尺度とセットで明示しましょう。

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