健康関連QOL(HRQOL)の測定尺度比較|SF-36とEQ-5Dの違いと数値の読み方

最終更新:2026-08-03Longevity Methods for 戦略的健康経営編集部

エビデンス:ヒト試験は限定的

小規模・短期のヒト試験はあるが、結論は未確立

今回の評価:SF-36・EQ-5Dはいずれも国際的に検証された標準尺度で、設計・スコアリングは公開文献・公式機関の一次情報で確認できる。ただしどちらも自己申告(自記式)の主観評価であり、測定の目的が異なる(SF-36=健康プロファイルの記述/EQ-5D=経済評価用の効用値)。異なる尺度のスコアは相互に換算・比較できない点に注意が必要です。

結論(30秒でわかる現在地)

  • 健康関連QOL(HRQOL)の代表的な測定尺度はSF-36EQ-5Dの2系統。SF-36は36問で8つの下位尺度(身体機能・日常役割機能〈身体〉・体の痛み・全体的健康感・活力・社会生活機能・日常役割機能〈精神〉・心の健康)を測る「プロファイル型」、EQ-5D-5Lは5問(移動・身の回りの管理・ふだんの活動・痛み/不快感・不安/ふさぎ込み)で効用値という1つの数値に集約する「インデックス型」です。
  • EQ-5Dの効用値はQALY(質調整生存年)の算出に使えるのが最大の特徴で、日本の公的な費用対効果評価(中医協)でも効用値の測定にEQ-5D-5Lが用いられています。一方SF-36は国民標準値(平均50・SD10)との比較ができ、「どの側面のQOLが低いか」を8次元で描き出せます。
  • つまり2つの尺度は優劣ではなく用途が違います。健康状態の内訳を知りたいならSF-36、施策の費用対効果を金額換算の土俵に載せたいならEQ-5D。そしてSF-36の「70点」とEQ-5Dの「0.85」を並べて比較することはできません——プレゼンティーイズム尺度(SPQとWLQ-J)が比較できないのと同じ構造です。
  • どちらも自己申告の主観評価で、実施時期・回答環境・母集団で数値は動きます。実務の結論は他の指標と同じ:1つの尺度に決めて、同じ条件で経年比較する。単発の数値や他社との比較で判断しないことです。

健康関連QOL(HRQOL)とは何を測るものか

QOL(Quality of Life・生活の質)は本来、生活全般の満足を含む広い概念ですが、医療・健康の文脈では「健康状態が生活の質に与える影響」に絞った健康関連QOL(HRQOL: Health-Related Quality of Life)を測定します。検査値(血圧・血糖)が「体の状態」を測るのに対し、HRQOLは「その状態で本人がどれだけ支障なく・良好に生活できているか」という本人視点の指標です。

ここで重要なのは、HRQOLは必ず標準化された質問票(尺度)で測るということです。自由回答のアンケートや独自の満足度調査は、検証された尺度ではないためHRQOLの測定とは呼べません。そして尺度には設計思想の異なる2系統——プロファイル型(SF-36)とインデックス型(EQ-5D)——があります。

SF-36:8次元で健康を描く「プロファイル型」

SF-36(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)は世界で最も広く使われるHRQOL尺度のひとつで、36問の回答から8つの下位尺度を算出します:①身体機能 ②日常役割機能(身体)③体の痛み ④全体的健康感 ⑤活力 ⑥社会生活機能 ⑦日常役割機能(精神)⑧心の健康。

日本語版には性別・年代別の国民標準値が整備されており(平均50・標準偏差10に基準化したNBSスコアリング)、「自社集団の活力スコアは同年代の国民平均よりどれだけ低いか」という読み方ができます。日本語版のライセンスは公式機関(iHope International/Qualitest)が管理しており、利用には正規のライセンス手続きが必要です。

強みは健康の内訳がわかること。たとえば「身体機能は高いが活力と心の健康が低い」といったパターンが見え、施策の狙いを絞れます。弱みは8つの数値が出るため1つの総合値で意思決定しにくいこと、そして36問の回答負担です。

EQ-5D:効用値に集約しQALYへつながる「インデックス型」

EQ-5D-5L(EuroQol 5 dimensions 5-level)は、わずか5問——①移動の程度 ②身の回りの管理 ③ふだんの活動 ④痛み/不快感 ⑤不安/ふさぎ込み——に5段階で答えるだけの短い尺度です。回答パターンは日本人の価値づけ研究にもとづくスコアリングで効用値(おおむね0=死亡相当〜1=完全な健康)という1つの数値に換算されます。

この効用値の最大の用途がQALY(質調整生存年)の算出です。「効用値0.8で10年生きる=8QALY」のように、生存期間を質で重みづけでき、医薬品や医療技術の費用対効果評価の共通通貨になります。日本でも中医協の費用対効果評価制度で、疾患横断的に比較できる効用値の測定法としてEQ-5D-5Lが用いられています。

強みは短さと経済評価への接続。弱みは5問ゆえに健康の内訳が粗いこと、軽微な変化を拾いにくいこと(旧3L版では天井効果=回答が満点付近に偏る課題が知られ、5段階化で改善が図られました)です。

一枚の表で比較:SF-36 vs EQ-5D

SF-36EQ-5D-5L
プロファイル型(8次元)インデックス型(1値に集約)
質問数36問5問(+VAS)
出力8下位尺度スコア(国民標準値と比較可)効用値(〜1、日本人価値づけで換算)
得意なこと健康の内訳の記述・集団のどこが弱いかQALY算出・費用対効果評価
制度上の位置づけ研究・臨床で広く使用中医協の費用対効果評価で使用
限界総合1値がない・回答負担内訳が粗い・軽微な変化に鈍い
共通の限界自己申告の主観評価/実施条件・母集団で変動/相互のスコア換算・比較は不可

繰り返しになりますが、この2つの尺度のスコアは互いに換算できません。「SF-36で測ったA社」と「EQ-5Dで測ったB社」の数値を並べるのは、当サイトがプレゼンティーイズム尺度比較で指摘したのと同型の誤りです。

健康経営・ロンジェビティ実務でどう使うか

健康経営やウェルビーイング施策の効果測定にHRQOL尺度を使う場合の実務ポイントは4つです。

  • ①目的で選ぶ:施策の狙いどころを知りたい(どの次元が弱いか)→SF-36系。施策の投資対効果を試算したい→EQ-5D(効用値×人数×期間でQALY換算の議論が可能に)。ただしQALY換算しても、ROI記事で整理したとおり因果の証明にはならない点は変わりません。
  • ②ライセンスと実施設計を確認する:SF-36日本語版は公式ライセンスが必要。実施時期・対象・回収率をそろえないと経年比較が崩れます。
  • ③1尺度に決めて経年で見る:年ごとに尺度を変えると過去と比較できなくなります。
  • ④単独指標にしない:HRQOLはプレゼンティーイズム・ストレスチェック・健診データと並ぶ1ピースです。主観指標(HRQOL)と客観指標(健診値)を組み合わせて読むのが、数字を独り歩きさせないコツです。

健康寿命が「社会の物差し」なら、HRQOL尺度は「集団・個人の物差し」。どちらも定義と条件をそろえて初めて意味を持つ——当サイトが一貫して確認してきた規律が、ここでも結論になります。

出典・参考にした研究

※本記事は効果効能を保証・断定するものではなく、公表されている研究・一次情報を中立に整理したものです。サプリメントは医薬品ではありません。体調・治療の判断は医師等の専門家にご相談ください。

よくある質問

SF-36とEQ-5Dはどちらを使うべきですか?

目的によります。健康状態の内訳(8次元のどこが弱いか)を知って施策の狙いを絞りたいならSF-36、費用対効果の議論(QALY換算)につなげたいならEQ-5D-5Lが適します。優劣ではなく設計思想の違いで、両方を併用する研究も多くあります。いずれにせよ途中で尺度を変えると経年比較が崩れる点に注意してください。

EQ-5Dの効用値とは何ですか?

健康状態を「1=完全な健康、0=死亡相当」を基準とする1つの数値で表したものです。5項目×5段階の回答パターンを、日本人を対象とした価値づけ研究にもとづくスコアリングで換算します。効用値に生存期間を掛けるとQALY(質調整生存年)になり、医療の費用対効果評価の共通単位として使われます。

SF-36のスコアとEQ-5Dの効用値は比較できますか?

できません。SF-36は8つの下位尺度スコア(国民標準値との比較用)、EQ-5Dは効用値(経済評価用)で、測っているものも数値の意味も異なります。異なる尺度で測った集団同士の数値を並べて優劣を論じるのは誤りです。比較したい場合は同じ尺度・同じ実施条件でそろえる必要があります。

健康経営の効果測定にHRQOL尺度は必要ですか?

必須ではありませんが、プレゼンティーイズムや健診データと組み合わせると「従業員の生活の質」という本人視点の変化を追えます。導入する場合は、ライセンス(SF-36日本語版は公式手続きが必要)と実施設計(時期・対象・回収率の固定)を先に決め、1尺度での経年比較を前提にするのが実務的です。

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